おかーちゃんの腕に残る「傷(きず)」
おかーちゃんの右腕には、今も消えない2本の傷がある。
ボクがまだ、3歳だった頃。
おかーちゃんに思いっきり噛みついてできた傷だ。
その日のボクはどこかヘンだった
ボクがこの家に来てから間もなくして、
ボクのお庭には時々、よその子がご飯を食べに来ていた。
ボクのお家のお庭に来るほとんどの子は、
美味しいご飯も、ふかふかのお布団も、お家もない子ばかり。
ボクは「武士のなんとかー」とかいうやつで、
お庭に来る「よその子」がご飯を食べ終わるまで、横でジッと見ていることが多かった。
そして食べ終わるころを見計らって、ボクはそいつらに向かって
「いっちょに、あしょぼ!」
追いかけていた。
ところがその日のボクは、ちょっと違っていた。
なぜか解らないけれど、やけにドキドキと興奮して
しっぽも「ぼぅっ」と膨らんでしまった。
いつもは、そんなこと思ったことなかったのに、
何かが、気に入らなかった。
あたりはもう、うっすらと暗くなり始めていた。
興奮したボク
ご飯を食べ終えたそいつが帰って行こうとする後ろ姿を睨みつけながら、ボクは、そいつを追いかけたくてウズウズしていた。
一歩、また一歩。
じわり、じわり・・・。
だけど、おかーちゃんがボクの首輪にくくりつけていた紐をしっかり握っていたので、ボクはちょっとだけ、息が苦しくなってしまった。
ボクは、そいつを見失わないように必死に睨みつけていた。
そいつは、ボクが追いかけられないことに気付くと、足を止め、その場で毛づくろいを始めた。
「ば・・・ばかにちて」
毛繕いをしながら、そいつはボクをちらっと見ると
「・・・ふっ」
鼻で笑った。
「かっ、ちーん!」
と、その時。
ボクの目の前を「にゅっ」と何かが横切った。
ボクは思わず爪を立てて飛びつき、思いっきり噛みつき、後ろの足で力強く蹴り入れた。
それがまさか、おかーちゃんの腕だとは思わなかった。
そいつはそんなボクを見てあざ笑うようにして、姿を消した。
「ぅぐぐぐっ」
興奮していたボクは、おかーちゃんの腕だということには気付かず、
なんかボクはさらに悔しくなって、さらに後ろ足でケリケリと蹴りこんだ。
「はなしぇ、ぼけっ!」
おかーちゃんは、叫ぶでもなく
でも、ボクを離すまいとしっかりと両手で抱え込んでいた。
爪を立て、唸りながら噛みついたままのボクを、おかーちゃんは痛みに耐えながら玄関の前まで連れて来た。
ようやく、おかーちゃんは声をあげ、家の中にいる ばーちゃん を呼んだ。
「ばぁーちゃんっ!早くドアあけて~ぇっ!」
おかーちゃんの叫ぶ声に何事かと、ばーちゃんが急いでドアを開けた。
ボクは、ばーちゃんの顔を見た瞬間、ふっと我に返り、おかーちゃんの腕に食いこませた爪を緩めた。
共に生きた証だから
「・・・お、おかーちゃん、ごめんなちゃぃ」
落ち着いたボクは、おかーちゃんの腕を見て、ちょっとだけ焦った。
おかーちゃんの右の手首は、流血だっくだくだった。
爪を立て、手のひらを思いっきり「ぱぁ」にして飛びついたボクは、爪を食い込ませた状態で「ぐう」にしてしまったのだ。
おかーちゃんはボクを怒るでもなく、笑いながら、タオルをグルグルに巻いた手でボクの頭をポフポフ撫でた。
流血だっくだくになった おかーちゃんの手首を消毒する ばーちゃんは「こりゃ、すごいわっ」と、大笑いしていた。
おかーちゃんの手首には、
あの日、3歳のボクがつけた2本の「ひっかき傷」の跡が、今もまだ消えることなくくっきり残っている。
おかーちゃんはその傷を見て、嬉しそうにこう言うんだ。
「これはね、宇宙-sora-と一緒に生きた証になるから、ずっと消えないほうがいいんだ」
って。
【教訓】
普段はおっとりした子でも、興奮すると我を忘れて狂暴になっちゃうので
こういう場合は、うかつに手を出さないように気を付けましょう!
また、どうしても抱き上げなければならない場合は、
腕を前に回すのではなく、両方の手のひらで肩を持つように抱き上げるようにしましょぅ。
でも暴れる力は、どんなに小さな子でも想像以上です。ご注意を。