ボクは時々、思い出す。
ボクがまだ小さかったころ、
ボクのお家の片隅で、静かに最期の時を過ごしていた「おばーちゃん猫」のこと。
おばーちゃん猫は夏の終わりにやってきた
ボクがこのおうちに来てからこれまで、いろんな猫がお庭にやってきては、どこかへ行った。
ボクと遊ぶでもなく、ただ「ごはん」を食べに来ていた。
長く「ごはん」を食べに通う猫もいたし、
ほんの数日だけ「ごはん」を食べに来るだけの猫もいた。
そしてその「おばーちゃん猫」も、ボクがまだ小さかった頃、
ボクのお家のお庭に現れた。
それは、暑い夏もまもなく終わろうとしていたころだった。
特定のお家を持たない、いわゆる「のら」の猫さんだった。
その「おばーちゃん猫」はもともと、もう少し離れた場所を「なわばり」にしていたらしいけれど、
少しずつ少しずつ移動して、ボクのお家の近くまでやってきたんだと言っていた。
ご飯をもらえるお家はいくつかあったけれど、
なかなかもらえないときや、食べたりないときにボクのお庭にやってきた。
最初はそんな感じで、時々顔を見せるだけだったけれど、
いつからか、
その「おばーちゃん猫」はボクのお庭で「ひなたぼっこ」するようになっていた。
奥まったところにあるボクのお家のお庭は危険がなく静かで、お日様の下でゆっくりお昼寝するのにちょうどよかったらしい。
そのうち、季節は移り変わり、吹く風が冷たくなってきた。
季節が「冬」を迎えるころ
季節が夏から冬になる頃。
おかーちゃんたちが、車庫の片隅にある作業台の下に「猫ベッド」を置いて、
風が吹き込まないように覆いをかぶせていた。
「あのーぉ、これは私のでよろしいのでしょうか」
おばーちゃん猫はそう言うと、ゆっくりとベッドの中に潜り込んでいった。
ボクのお庭に来たばかりの頃は、まだしっかりとしていた足取りだったけれど
おばーちゃん猫は、一日、一日、
足腰が弱くなり体力がなくなっていく感じだった。
どこへ行くでもなく、昼間はお庭のポカポカと日の当たるところで寝て
夕方になってちょっと寒くなってくると、そろそろとベッドの中へと潜り込んでいた。
でもその頃はまだ、ボクのお家の中へは入ろうとはしなかった。
そのうち、ご飯を食べる時だけベッドから出てきて、
食べ終わると、のっそりと戻っていくようになっていた。
その様子を、ボクはお家の縁側から眺めていた。
そういえば。
おばーちゃん猫は「さんちゃん」って呼ばれていたっけ。
おばーちゃん猫と過ごした「冬」
雪がちらちらと降り始めるころには、
さんちゃんの寝床は作業台の下からボクのお家の縁側に移動していた。
おばーちゃん猫は最初、お家の中に入りたがらなかったけれど、もう抵抗する力もあまりなく、ばーちゃんたちに無理やり家の中へと連れてこられた。
縁側に置かれたすっぽり被る袋型の「にゃこベッド」の中に、猫用だというぽかぽかヒーターが入れられていた。
あれ、ちょっと羨ましかったかも。
お家に入ったばかりの頃は、ご飯の時間になるとベッドからなんとか這い出ていたけれど、
そのうち、ばーちゃんたちが引っ張り出さなければ出てこれなくなっていた。
雪が積もり始めた頃にはもぅすっかり体力もなくなり、
ベッドの中に潜り込んだままほとんど動くことがなかった。
ボクは時々、さんちゃんの様子が気になって様子を覗きこもうとしたけれど
「病気が伝染るといけないから」と、さんちゃんのいる縁側にはなかなか出入りさせてもらえなかった。
お庭に来たばかりの頃の「さんちゃん」の体はまだぽっちゃりしていたけれど、
この頃にはもうすっかり細くなって、背中の骨が分かるくらいまでガリガリしていた。
しかも。
「コウナイエン」ってやつが悪化していて、ふやかした「カリカリ」もほとんど食べられなくなっていた。
毛並みもボロボロになっていた。
おかーちゃんがお仕事に言っている間
「もう3日もご飯を食べない」と心配して、ばーちゃんが病院へ連れて行こうとベッドから引っ張り出そうとしたけれど、
「いやっ。ここに居たいですっ。お外に出たくないですっ!」
冬の寒い外に放り出されると思ったのだろうか・・・さんちゃんはガリガリの体で必死にベッドに爪を立て、激しく抵抗していた。
自分の力で立つ力は残っていなかったけれど、必死になってベッドにしがみついていた。
「ばーちゃんたちは、そんなことしないよ」
ボクはそのたび、さんちゃんにそう言った。
病院で「栄養剤」を打ってもらうと、数日は調子がよくなるようで、
その日は少しだけ、ふやかしたカリカリも食べれるようになったけれど、またすぐに食べられなくなり、また病院へ。
そんな日がしばらく続いた。
でも・・・
お庭の雪もとけはじめ、
窓から差し込む日差しもポカポカするようになり
もうすぐ「春」がやってくるという頃
さんちゃんのところへ神様からのお迎えがやってきた。