おかーちゃんにムカーっ!
おかーちゃんは、今も「ぱちょこん」っていうやつをカコカコしている。
ボクがこのお家に来た頃から、いつも「ぱちょこん」っていうやつをカコカコしている。
そぅ、あの日も・・・。

おかーちゃんと一緒に早く寝たかったのに、
おかーちゃんは、ボクの頭を軽くなでるとすぐに「ぱちょこん」をカコカコ。
カコカコカコカコカコカコカコカコカコカコ・・・。
「むっ、かーっ(怒)!」
ねぇっ、それいつ終わるのっ?!
ボクは聞いたけど、おかーちゃんには聞こえていなかった。
「くっちょぅ~」
ボクは「カコカコ」が終わるまで、おかーちゃんの横でしばらく寝たふりをしてた。
ボクは「カコカコ」が終わるころを見計らってムクりと起き、部屋を出た。
下のお部屋(居間)でテレビを見ていた「ばーちゃん」 のところへ行って「おやつ」をもらっていると、おかーちゃんが迎えに来た。
「宇宙-sora-ぁ、寝るよー」
おかーちゃんはそう言ってきたけれど。
「ふんっ。行くもんかっ」

ボクは素早くばーちゃんの膝の上に飛び乗り、おかーちゃんに拉致(抱っこ)られないよぅに体を小さく丸めた。
ばーちゃんの膝にしがみつくボクを、おかーちゃんが覗き込んでくる。
「もぅ、寝るよー」
『一人で寝れば?』
「先に行くよー」
『さっさと行けっ!』
「・・・・(泣)」
おかーちゃんは、しょぼーんとしながら、ひとりでお部屋に戻っていったけれど、10分もしないうちに戻ってきた。
ボクは、ばーちゃんの膝からちょうど降りたタイミングだった。
でも、おかーちゃんが迎えに来たのでボクはまた、慌ててばーちゃんの膝の上に飛び乗った。
『行かないもんねっ。一人で寝れっ!ふんっ』
目を閉じたまま「つーん」とするボクの顔を覗き込んでいた おかーちゃんはため息一つ。
寂しそうな顔でお部屋に戻っていったけれど・・・またまたすぐに戻ってきた。
「ねぇ、宇宙-sora-たん。おかーちゃん、先に寝ちゃうよ?いいの??」
『もぅっ、勝手に寝ればっ?!』
ボクが「寝よー」って何度も言ったのに無視して「ぱちょこん」カコカコばっかりしてたくせに!
ちったぁ、反省しろーーーーっ。

あの日から、ずいぶん経ったけれど。
おかーちゃんはやっぱり、今日も「ぱちょこん」カコカコカコカコ・・・。
ボクもあれから大人になったから、一人で寝れるけど、さ。
ほんと、もぅ。
ボクと「ぱちょこん」どっちが大事なの?
おかーちゃん。一人で大騒ぎ
ベランダに出てると、ときどき、思い出す・・・。
そういえば。
あれは、寒い冬の朝だったよね。

いつもはボク、
おかーちゃんがお仕事に行く時間になっても、寒くてフカフカ毛布に包まっていつまでも寝ているけれど、あの日はなぜか早くに目が覚めて、風がとても冷たかったけれど、ボクはベランダに出ていたんだ。
あの頃はまだ、
ベランダには柵もしていなくて、突き出したお部屋の屋根の上にも自由に行けるようになっていたっけ。
飛んでくる虫さんを捕まえたりして、ボクの大好きな遊び場だったな。
屋根から飛び降りれば、お庭に行くこともできたけれど
けれどボクは、ちっちゃい頃から高いところから降りるのが苦手だったから、ベランダに出てもそこから先への冒険はできなかったんだ。
だから、おかーちゃんも安心してボクをベランダに出してくれていたんだけれど。
朝ご飯を食べ、お仕事に行く準備をして
「宇宙-sora-くーんっ、お仕事に行ってくるねー」
おかーちゃんがお部屋に入ってくる気配がした。
「あれ・・・?宇宙-sora-??」
いつも寝ているはずの毛布の中にボクがいないので、おかーちゃんは心配そうにベランダに顔を出してきた。
そして、屋根の上にボクの姿を探しているっぽかった。
まぁ、いつもボク、そっちのほうにいるし・・・ね。
「あれ?・・・そ、宇宙-sora-??・・・いた??」
『うん、ここにいるよ~』
ボクは声を出さず、ベランダの手すりの上でうずくまったまま、心の中で返事した。
おかーちゃんはボクがいる手すりとは反対の、夜の雨で濡れた屋根の上を不安そうな表情で探していた。
「宇宙-sora-っ??どこだっ??や、やばぃっ!いないっ?!えっ、落ちたっ?!ど・・・どぅしようっ」
視線を屋根からベランダの下、庭へと移す。
まぁ確かに。
この家にきたばかりの頃すぐに、一度、屋根の上から落ちたことはあるけれどさ。
ボクはそこまでドジじゃないぞ。
「宇宙-sora-ぁっ?!」
『もぅ、どこ見てるの?ボク、ここにいるけど』
おかーちゃんは横を見ようとはせず、
視線を下に向けたまま、庭の木の、枝の隙間にボクの姿を探して一人で騒いでいる。
「どぅしよぅっ。宇宙-sora-がいないっ?!」
おかーちゃん顔面蒼白。
ボクを探しに外へ行こうとお部屋に戻ろうとした次の瞬間。
「・・・・・・・・・・あ」
ベランダの手すりの上でくつろぎ、あくびをするボクと目が合った。
「ぉかーちゃん、おはよーぅ」
安心して力の抜けたらしい おかーちゃんに、ボクは「にゃー」と声に出して答えた。