ねぇ、おかーちゃん。
憶えている?
あの日のこと・・・
ボクのごはん茶碗
ボクの「ごはん茶碗」は、おかーちゃんの「手のひら」。
ボクがこのお家に来たばかりのころ、銀色の平べったいお皿の中にカリカリをちょっと入れて
お湯でふやかして食べていたけれど、あれ・・・正直、あんまし美味しくなかった。
そんなある日。
おかーちゃんが手のひらにカリカリをのせて「もぅ、硬いの食べれるかな?」って差し出したから、
ボクはそれを食べてみた。
「んまーぃ!」
お皿の中のカリカリを同じモノだったけれど、おかーちゃんのニオイがするーっ。
ボクは一生懸命、硬いカリカリを食べたんだ。
お湯でふやかされていない硬いカリカリは、ちょっと大人になった気分。
ふふーん♪
その日も、
いつものように、おかーちゃんの手のひらから「ごはん」を食べていた。
が。
あの日はちょっと食べすぎた。
朝起きて、ごはーん。
ベランダのお散歩から戻って、ごはーん。
おかーちゃんの身支度の後ろをついて歩いて、ごはーん。
おかーちゃんのお仕事へ行く時間になって、ごはーん。
ごはん、んまんま♪
ひたすら、ご飯を食べるボク。
ボクがご飯を食べている間は、おかーちゃんはお仕事に行けない。
だってボクのごはん茶碗は、おかーちゃんの手のひらだから。
ボクがご飯を食べている間は、おかーちゃんは動けない。
お仕事なんて、行かなきゃいいんだ。
ボクとずっと一緒にいよー♪
ひたすら「ごはん」を食べるボク。
ぅっ。
や、やばぃ。
にゃんだか・・・
気持ち悪くなってきた。
ぅく、うく・・・っ、うくっ、うくっ・・・うけっ!
あぁ、やってしまった。
今食べたもの、全部だしちゃった・・・。
見ると、
今ボクが出したばかりのホッカホカのものを、おかーちゃんは手のひらで受け止めていた。
「お、おこられちゃう~」
ボクは、ちらり。
おかーちゃんを見上げた。
でも、おかーちゃんは一言、こう言ったんだ。
「せーふ!」
だってね。
あの日、ご飯を食べていたボクが座っていた場所は、おかーちゃんと一緒に寝ているお布団の上だったんだ。
お布団、汚さなくてよかった。
ボクの秘策
ボクはこのお家に来てから、本気で怒られたことがあまりない。
というか、ほとんど、ない。
だって、ボクには怒られない【秘策】があるんだ。
教えてあげる。
おかーちゃんが何か怒ろうとして「ぐぅ」を握ったら、
ボクはそのまま「あぃっ!」って首を伸ばして頭を差し出し、自分から「ゴツンッ」ってするんだ。
そうするとね、
おかーちゃんは何を怒ろうとしたか忘れちゃうんだ~。