宇宙-sora-物語|宇宙-sora-が生きた日々の記憶11|ボクのお気に入りのハーフ毛布

ボクの生きてきた日々

なっちゃんが、ボクの前に姿を見せなくなって、
このお家からニオイも少しずつ消えていった。

時々ひとりでお留守番することが、寂しくなってしまった。

そんなある日おかーちゃんが、ふわふわとした毛布を買ってきてくれた。
それは、ボクの名前「sora」にちなんだ、空色の毛布だった。

 ボクのお気に入り

「そーちゃん。おかーちゃん、お仕事に行ってくるね」

この言葉を、おかーちゃんは毎日5回は言ってから「仕事」というところへ行っていた。

「あい、いってらっちゃい」

ボクがそう言って見送ると、部屋のドアを開けたおかーちゃんが「行きたくない~」と言って戻ってくるからだ。

そして、ボクの体を撫でくりまわして、むぎゅーぅと抱きしめて、おでこに「ちぅー」して、また

「そーちゃん。おかーちゃん、お仕事に行ってくるね」

と、部屋のドアを開けるのだ。

いつも、それを5回は繰り返していた。

もちろん。

おかーちゃんにボクの「言葉」が聞こえているわけではない。

ボクの「眼」が、「いってらっちゃぃ」と言っているように見えていただけだ。

ボクが本当は何を言っていたかは・・・内緒である。

そんなある日、おかーちゃんがふわふわの毛布を片手に帰ってきたのだ。

それはボクの名前にちなんだ「空色」、薄い青色の毛布だった。

その夜。

おかーちゃんはその毛布の下に足を入れて、興味津々で見ているボクの前でパタパタ動かしていた。

大人になったボクにはそれは、「おかーちゃんの足」でしかなく、どうってことない動きだったけれど、

まだ小さかったボクにとっては、毛布の下に何か獲物がいるみたいな、面白い動きをしていた。

「えぃっ」

ボクは勢いよく飛びついた。

小さいボクはまだ体重も軽くて、

毛布の下のおかーちゃんの足が上下に動くたび、ボクも大きく上下に揺れて、そのうちコロンっ。と転がされてしまった。

「た・・・っ、たのちぃ!」

ボクは何度も、毛布に飛び掛かっては上下に揺らされ、コロンっ。と転がされた。

毛布には、「黒ねこ」が描いてあって、それがボクには「なっちゃん」に見えた。

そのうちボクは、なっちゃんと遊んでいるような、そんな気持ちになった。

おかーちゃんの買ってきてくれた毛布は、ボクのお気に入りになった。

 謎

「あれ?さっき片づけなかったっけ?」

2階の寝室にあるボクのベッドに置いたはずの毛布が、いつの間にか1階の居間に落ちているのを見つけて、おかーちゃんが首を傾げていた。

「おかしぃなぁ」

そう言いながら毛布を拾い上げ、また2階の寝室へと片づけに行った。

次の日もまた次の日も、ベッドに戻したはずの毛布を居間の床に落ちているのを見つけては、おかーちゃんは首を傾げていた。

その日も、おかーちゃんは居間にあった毛布をボクのベッドに戻していた。

ボクは、おかーちゃんの後について行った。

そして、おかーちゃんがベッドに毛布を置き、寝室から出て行ったのを確認して

「よぃちょ」

ボクは、毛布の端っこを咥えた。

ずる・・・っ、ずる・・・っ、ずる・・・っ。

「な、何の音?」

洗面所で出かける準備をしていたおかーちゃんが奇妙な音に気付き、恐るおそる、階段をのぞき込んできた。

「そーちゃん?あなた一体、なにを・・・」

毛布の端っこを咥え、転びそうになりながら階段をおりるボクを見て、おかーちゃんの目が点になった。

「よくまぁ、そんな大きな毛布、運べたね」

おかーちゃんは、ボクの体の倍以上もある毛布を、まさか運べるとは思っていなかったらしい。

ボクは、そのまま自慢げに毛布を引きずって、居間まで運んだ。

おかーちゃんはその日以来、居間で毛布を見つけても、夜の寝る時間になるまで片づけることはなくなった。

 さびしくないよ

その日は休日で、
「すぐに帰ってくるね」と言い残して、おかーちゃんとばーちゃんが買い物に出かけると、じーちゃんまでどこかに出かけ、

ボクは家の中でポツンとお留守番することになった。

家の中が、しーんと静まり返り、普段は聞こえない時計の秒針の音だけが鳴り響いていた。

これまでは、なっちゃんが姿を見せてボクの傍に居てくれたけれど、そのなっちゃんも、もぅいない。

静まり返ってしまった部屋の中で、ボクはとても心細くなってしまった。

ボクはいつものように、お気に入りの毛布を運んできて、その上で丸くなり、おかーちゃんたちの帰りを待った。

そのうち、なんだか眠くなってきて、ボクはいつしか夢の中にいた。

毛布の上にいると、なっちゃんが一緒に居てくれるような、そんな心地のよさだったのだ。

だから、この毛布があれば、ボクはちっとも寂しくなかった。

バタンっ。

車のドアが閉まる音が聞こえ、ボクは目が覚めた。

「帰ってきたーっ」

ボクは嬉しくなって、毛布から飛び出し、急いで窓に向かった。

車から降りて荷物を運んでくるおかーちゃんたちの姿が見えた。

がちゃり。

玄関のドアを開け、おかーちゃんが大笑いした。

その声に、ばーちゃんが驚いたけれど、次の瞬間やっぱり笑っていた。

玄関の「たたき」の上に、ボクの毛布が丸まって置いてあったからだ。

大笑いしたあと、

「そーちゃん、寂しかったねぇ、ごめんね」

おかーちゃんたちが言った。

 全部、消えた!

ボクの大事にしていたお気に入りの毛布は、いつしか汚れてクタクタになっていた。

そんな毛布を、ある日、ばーちゃんが洗ってしまった。

ボクのお気に入りの感触もニオイも全部消えて・・・ボクは毛布に興味がなくなってしまった。

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