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宇宙-sora-物語|宇宙-sora-が生きた日々の記憶10|「なつ」とお別れ

ボクの生きてきた日々

 「なっちゃん」とのお別れ

まだ、おかーちゃんの手のひらに乗るくらいに小さかったボクは、ひとりでソファーの高さから降りることができなかったんだ。
なので、おかーちゃんとばーちゃんは寝る時、ボクが夜中にあちこち歩き回らないように、ソファーの上に置き去りにされた。
部屋のドアが「パタン」と閉められる。

なっちゃんは、おかーちゃんの後についてどこかへ行ってしまったけれど、ボクは電気が消された広い居間の中に、ポツンとひとり取り残された。

もう長いこと、ずっとひとりで過ごしてきたボクだけれど、カチコチと時計の音だけが鳴り響く静まり返った薄暗い部屋の中は、どこか怖かった。

横にはボクのために買ってくれた「いちご」の形をした、中にふかふかの毛布を敷いた屋根のあるベッドが置いてあったけれど、ボクは、おかーちゃんたちの匂いのするクッションの隙間に挟まって寝ることにした。

身体にくっつくクッションの重たさが、兄弟たちと一緒に寝ているような感じでどこか心地よかったけれど、クッションは少しひんやりしていて、やっぱり心細かった。
「・・・なっちゃんばっかり、ずるいや」
かちこち、かちこち、かちこち・・・。
時計の音がいつしか小さくなって、消えていった。

「そーちゃん、おはよー。そんなところで寝てたの?寒くなかった?」
ボクの体の上のクッションを持ち上げ、おかーちゃんが声をかけてきた。
眩しい光に、ボクはちゃんと目を開けなかった。

いつの間にか朝になっていた。

おかーちゃんと「なつ」の時間

「そろそろ、なつの物を片づけなきゃな」
ボクがこの家に来た日、おかーちゃんがポソリと呟いていた。

その夜にボクだけが置いていかれて不貞腐れていた次の日の朝、
「おはよう」
そう言いながら、なっちゃんが何もなかったかのような表情でボクの横に座り、毛づくろいを始めた。
「よく眠れた?」
「・・・。」
ちょっぴり怒っていたボクは返事をしなかった。
「この部屋の上にはね」
なっちゃんが言いながら上を見たから、ボクもつられて上を見上げた。
「もうひとつ、お部屋があるの」
ボクには、天井しか見えなかった。
「このお部屋を出ると階段っていうものがあって、それを上っていくの」

その部屋は、おかーちゃんとなっちゃんがいつも一緒に寝ていた部屋で、なっちゃんの姿が見えなくなってしまった今でも、なっちゃんが使っていたものがそのまま置いてあるのだと言う。
ボクを連れて帰ってきたのは、衝動的なことだった。
だからまだ、なっちゃんが居たころのまま片づけられていない状態の部屋には、ワクチンが済んでいないボクを一緒に連れていけなかったのだ、と。
「なっちゃん」の被毛とヒゲだけが残され空っぽになったベッドを、おかーちゃんはすぐに片づけることが出来なくて、ボクは3日ほど居間のソファの上で、ひとりぼっちで寝ることになった。

「結局、戻ってこなかったね・・・」
おかーちゃんは、空っぽに見えるベッドに向かって言っていたらしい。
『あたぃ、ここにいるよ』
おかーちゃんは時々、なっちゃんが帰ってくる気配を、なんとなく感じることがあったらしい。
でも、なっちゃんが座って見つめていても、どんなに鳴いてみても、おかーちゃんには「なっちゃんの姿」が見えないのだ。
「ごめんね・・・なつ」
『・・・ぅん』
おかーちゃんはベッドの中の被毛とヒゲを1本、1本、残らず拾い、ティシューに包んで財布の中に片づけた。
「これで、いつでも一緒にお出かけできるね」
そう言うおかーちゃんに
『その財布、落としたらどうするのよっ!?』
なっちゃんはそう思ったらしい。
そのあと、財布は何回か新しいものに変わったけれど、そのたびに「なっちゃんの被毛とヒゲ」も新しいお財布の中に引越ししていたのをボクは知っている。

それから意を決して、なっちゃんが使っていたベッドを、おかーちゃんは少し泣きながら片づけた。
なっちゃんのベッドがあった場所にボクの新しいベッドが置かれ、ボクはようやくもう一つの部屋に連れて行ってもらえた。

 

久しぶりに見た夢

おかーちゃんと一緒に寝れる夜、ボクは嬉しくて、しばらくお部屋を駆け回って遊んでいた。
ボクのベッドは、窓際に配置された3段チェストの上に置いてあった。
そこから外の景色がよく見えそうだったけれど、外はもう暗かったし、何よりボクはまだひとりで、そこまで上がれそうになかった。

そのベッドの中には新しい、ふかふかの毛布が敷かれていて、なっちゃんがボクの新しいベッドの中で座っていたけれど、どこか居心地悪そうで、すぐに下りてしまった。
なっちゃんは、おかーちゃんのベッドに置かれた枕の隅っこで眠ってしまった。

「そろそろ、寝るよ」
おかーちゃんは遊ぶボクを抱き上げて、ボクのベッドで寝かせようとしたけれど、おかーちゃんとなっちゃんが一緒に寝ているのを見て、ボクは羨ましくなってしまった。
だから、ちょっぴり高くて怖かったけれど、おかーちゃんたちが寝ているベッドの上へと飛び降りた。
「ボクもまぜてぇ」
ボクは、おかーちゃんの枕の上によじ登り丸くなって、おかーちゃんの頬にくっついて寝た。
おかーちゃんの頬の温もりに、ボクは久しぶりに夢を見た。
もう顔も思い出せなくなってしまった、「おかぁちゃん」や「兄弟たち」と一緒に寝ている夢だった。

数日、おかーちゃんと一緒に寝たボクだったけれど
「・・・ぅにゃぁあああっんっ」
ボクの悲鳴に、おかーちゃんた飛び起きる。
ある夜、寝返りを打つおかーちゃんの頬に押しつぶされてしまったのだ。
次の日から、ボクは一緒に寝るのをやめた。

お別れ

なっちゃんのベッドが片づけられ、ボクの物がどんどん増え始めると、なっちゃんの影が次第に薄くなってきた。
ボクがひとりでお留守番することになっても、なっちゃんは、なかなか出てきてくれなくなった。
ボクは、寂しくて、心細くて、
「にゃぁーん」
鳴いて、なっちゃんを呼ぶことが多くなった。

 

ボクが初めて外に出た日。
なっちゃんはボクの前に姿を見せなくなった。

 

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