今日もボクは、ひとり、うつら、うつら・・・。
いつからか、ボクはひとりで寝るようになっていた。
でも、あの頃のボクは、ひとりで寝るのが怖かった。
だって、ボクは思い出すんだ。
ひとりぼっちで狭い箱に閉じ込められていた、あの時間を。
おかーちゃんと出会うまで、ひとりぼっちだった、あの夜を。

ひとりじゃ寝られませんっ。
眠くなってきた・・・。
時計はすでに夜の9時を回っている。
ボクは、居間と寝室を行ったり来たり。
なんとなく廊下で寝そべってみるけれど、落ち着かにゃぃ。
「おかーちゃん、まだ寝ないのかなぁー」
ボクは廊下から居間を覗き込んでみる。
おかーちゃんは、「テレビ」というものを見ていた。
あれ、何が面白いんだろう。
あの中からは何も出てこないのに、時々ケラケラ笑っている。
ボクには何が面白いのか、さっぱりわからない。
「おかーちゃん、来てくれにゃぃ。ひとりで寝ようかな・・・」
ボクは寝室へ行って、お布団の上で丸くなってみるけれど・・・なんとなく心細い。
ボクの耳がピクっと動く。
カサっ、カサカサッ。
窓の外で何か音がする。
そして、すぐにお部屋の中が静まり返る。

「にゃ、にゃんか怖いかも・・・ぉ」
今ならわくわくする虫さんの羽音も、足音も、
まだちっちゃくて、何も知らなかったあの頃のボクには怖かった。
暗いお部屋の中。
ボクは、思い出すんだ。
おかーちゃんに出会う前。
このお家に来る前。
ひとり、小さな空間で寝ていた時のことを。
呼んでも、呼んでも、誰も来てくれないあの時のことを。
ボクはもう一度、おかーちゃんを呼びに行く。
「ねぇーっ、おかーちゃんっ。もぅ寝ようよー」
ボクは廊下で寝そべったまま、おかーちゃんが動くのをじっと待つ。
おかーちゃんは相変わらず、テレビを見ている。
ボクはひたすら、おかーちゃんを待つ・・・待つ・・・・待・・・
もぅ待てニャイっ!
ボクはもぅ眠いんじゃーっ!
「おかーちゃん、ボク、眠いよーぅ」
ボクはおかーちゃんに頭突きを食らわし、「とろろろぉおん」とした瞳で見つめてみる。
「・・・・・・今、いいとこなんだけど、もぅちょっと待ってくれんかの?」
ボク眠いですっ!
もぅ待てませぇぇん!
はよぉ寝よっ!
一緒に寝てっ!
ボク、一人じゃ寝れましぇんっ!
ボクは一生懸命、さらに特大の「とろろぉおん」とした瞳で訴える。
「ねぇ、宇宙-sora-クン。おかーちゃん、たまにはおっきいテレビでゆっくり観たいんですけどぉ」
そうぼやきながら、おかーちゃんはついてきてくれた。
ボクは嬉しくて、足取り軽く階段を「んちょんちょ」駆け上がる。
寝室へ入ると、ボクはそそくさとマイベッドの上で丸くなる。
そしてすぐに

すぅぅ・・・
ぴぃぃぃ・・・。
ぐっ、ぷぅぅぅ zzzzz
「寝入るの、早すぎっ」
ボクのいびきを聞きながら笑う、おかーちゃんの声が遠のく意識の中でなんとなく聞こえた。
いまはひとりじゃないから
あの日から15年が過ぎた。
今のボクにはたくさんの兄弟がいる。
ときどき、うっとおしくも感じるけれど
まぁ、幸せだから、にゃにも怖くない。
だから今のボクは、夜、おかーちゃんがいなくても
ひとりで寝てても平気なんだ。

・・・ひとりじゃないんだけどさ。
