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宇宙-sora-物語|宇宙-sora-が生きた日々の記憶14|あの頃

ボクの生きてきた日々

時々。
おかーちゃんと ばーちゃんが
「あの頃って、どうやってあんな生活してたんだろうね」
と話すのを、ボクは耳にする。

 「あの頃」のお話

あの頃・・・

それは、ボクがこのお家に来て1年くらいのこと。

その会話を聞きながら
ボクも「あの頃」を思い出す。

夜のお散歩

すっかり歳をとってしまった今のボクは
朝とお昼
ほんの少しのお散歩(と言っても、お庭の匂いチェック)しかしなくなったけれど

「あの頃」のボクは、夜もお散歩していた。

ボクがお外で遊ぶようになって、間もなくだったと思う。
おかーちゃんは、夜のお食事が終わると、ボクを連れてお外へ出てくれた。
ボクはその時間が待ち遠しかった。

ボクの家の前は、ちょっぴり広めの駐車場になっている。
その横には、ばーちゃんが手入れしている「花壇」というものがあった。
ふかふかの土が気持ちよかった。

人間というイキモノは、暗いところではあまりよく見えないらしく、
ボクは時々そこで、見つからないように内緒でウンチした。

あれは、気持ち良かったな。

花壇の反対側には「親戚の畑」というものもあったけど、その頃にはもう何も手入れされていなく、
草がぼぅぼぅで、ボクの大好きな虫さんたちも、いっぱいいた。

ボクはしばらく、そこで遊ぶことが多かった。

ある日。
ふとボクは、お庭の外が気になった。

おかーちゃんがずっと、ボクに着けたハーネスをしっかり握りしめていてくれたから
一歩、勇気を出して踏み出してみた。

見たことのない世界が、ボクの目の前に広がった。
左右に長く伸びる道。

勇気を出した最初の1日は、ニオイを嗅いで情報収集しながら10歩くらい歩いてみたけれど
遠くから聞こえる音や、嗅いだことのないニオイにちょっぴり怖くなって、すぐに引き返した。

次の日は、もぅ10歩。
次の日は・・・

「あの角を曲がったら、何があるだろう」

ボクは興味があったけれど
しばらくボクは、それ以上は前には進めなかった。

お庭の前の駐車場で遊んでいると
毎日、大きな「犬」がボクの前を通っていくので、ボクたちはすぐに顔見知りになった。
その犬も、ボクと同じようにハーネスでつながれていた。

「やぁ、宇宙くん。元気かね」

ボクに声をかけてきたのは、犬を連れた「おじさん」だった。
初めて会ったとき、ボクはこの人が怖くて逃げていたけれど、呼びかける声がとても優しかったので、そのうち慣れた。

ちょっと長めの毛をした白黒の「犬」のほうも、ボクに向かって吠えることもなく、
どちらかと言えばむしろ好意的で、
彼の身体はボクよりずいぶんと大きかったけれど、実はボクと同じ歳だと、あとから知った。

「今日は、どこへ行ってきたの?」
「いつもと一緒。そこへんをぐるり。ボクはもぅちょっと歩きたいんだけど・・・」
もう、お家に帰らなきゃダメみたい。
と、彼はちょっぴり不満そうだった。
「いいねキミは。まだお外で遊べるんでしょ?」
そう言う彼の声を聞こえないふりをして
「ねぇ、この道の向こうには何があるの?」
おかーちゃんと、その「おじさん」が何やら話している間、
ボクは、ずっと気になっていたことを彼に聞いた。

彼の名前を聞いたことがあるけれど・・・ボクは覚えていなかった。
まぁ、名前なんて覚えてなくても、別に困らないし。

「行ったことないの?」
「おかーちゃんが、ここから先は危ないからって、連れて行ってくれないから」
「ふーん」

嘘だった。
ボクが行こうと思えば、おかーちゃんはついて来てくれる。
けれど、「なんとなく怖くて行けない」

なんて、恥ずかしくて言えるか。

「そこを曲がると、いろんなお家がいっぱいあるんだ。その先にはちょっとした空地もあって、ボクはそこで思いっきり走って遊んでみたいんだけど、おとーちゃんは遊ばせてくれないんだ」

人間には人間の事情というものがあるらしく、勝手に入ることが出来ないところがいっぱいあるんだ。
と、彼は言った。

あとは、「神社」というところと「公園」というところがあって、
そこは自由に入ってもいいらしいけれど、

「でも、怖がりなキミの小さなその身体じゃぁ、あそこまで歩いていくのは無理だね」

少し大きな耳の毛を揺らしながら彼がちっぴり小バカにして笑うので、ボクはムッとした。

「おかーちゃん!神社っていうとこ行ってみよっ、神社っ!公園もねっ!そして明日、あいつに自慢するんだ!ボクだって行ってきたよって!」

おじさんと「彼」が去ったあと、
彼らとは反対のほうへボクはハーネスをぐぃぐぃ、おかーちゃんを引っ張った。

恐る恐る角をのぞき込む。
長く伸びる道。
いろんな「音」が道の両脇から聞こえてくるのに、誰もいないし、何もない。

「・・・ぅ」

やっぱり、帰るーっ!

ご町内を一周

それから数日が経って、
ボクは少しずつ、あの道を歩き始めた。

今日は、お家一軒分。
次の日はまた、お家一軒分。

知らない人のお家の庭から漂う「ニオイ」と「音」を確認しながら、毎日少しずつ距離を伸ばした。

「ん?」

その日、ボクはなんとなく何かの気配を感じて横を見ると、ちょっぴり高い階段があった。
その上に何があるのか気になって、ボクはそぉーっと階段に手を伸ばした。

あの頃、
今よりまだまだ小さかったボクの体では、今みたいに軽快には上がれず
一段、一段、「よぃしょ」とよじのぼる感じだった。

人間には人間の事情というものがあって、本当はボクが入れる場所ではなかったらしいけれど
そんなことがボクにわかるわけもなく、
おかーちゃんは息をひそめ、ボクが階段を上るのを見守っていた。

お庭に入るわけじゃない。
階段の上まで・・・。
こんな時間だし、誰もいないだろう。
上りきったところで、抱っこして下りれば大丈夫。

と、おかーちゃんは思っていたのだ。
だが。

「おやまぁ」

階段を上り切った先で、その家に住む「おばぁちゃん」が玄関先に置いた椅子に腰かけ、暑い夏の日の、ちょっぴり涼しく心地よい夜風を愉しんでいた。
これにボクは驚いたが、おかーちゃんも驚いたようだった。

「こりゃまた、かわらしいお客様が来たことぉ」

おばあちゃんは怒ることなく、少し背中を丸めながら椅子に腰かけながらボクを見て笑っていた。
ボクは、転げるように階段を駆け下りた。

「ごめんなさいっ」

おかーちゃんも謝りながら、ボクと一緒に逃げるように走った。

「また、おいでね」

おばあちゃんは、そんなことを言った気がする。

少しボクの体が大きくなってから、何度かあの階段を上がってみたけれど
あの夜以来、ボクはこの「おばぁちゃん」に会うことはもうなかった。

玄関の前に置いてあった椅子も、いつの間にか、その場所からなくなっていた。

そんなこんなで日々、ボクは「夜のお散歩」の距離を伸ばし、気が付けば、ご近所を一周するようになっていた。
その頃には秋になり、冬になろうとしていた。

ボクがご町内を一周、「ふふふぅん♪」とお散歩できるようになった頃には、
おかーちゃんだけじゃなく、ばーちゃんまでボクのお散歩についてくるようになっていた。

人間は、暗いところだと周りがよく見えないらしい。
しかもボクは、犬と違ってまっすぐ歩かないから、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。
雑草の中に入ってみたり、停まっている車の下に潜り込んでみたり。
おかーちゃんたちにとっても、夜、町内一周をお散歩するのはちょっとした冒険のようだった。

ふとしたハプニングでハーネスを離してしまったとき、ボクを見失わないようにと、ボクの首輪にはピカピカ光るライトが付けられていた。

ある晩、
お散歩コースの途中にある草の茂みにポツンとある、誰かさんのお墓の上に上がって遊んでいると少し酔った感じのおっちゃんが2人、にぎやかな声で話しながら歩いて来た。

おかーちゃんと ばーちゃんは、おっちゃんたちに絡まれないように物陰に隠れ、声を出さずにボクの様子を見ていたので、おっちゃんたちはボクたちに気づくことなく通り過ぎていくはずだった。

が! 

ボクがちょっと動いたら、首輪のライトもふわふわと動いたので、おっちゃんの一人がビックリして、急に大声をあげて叫んだ。

「お、お・・・おぃ、お前っ。いっ、いっ、今の見たか?!」
「なにを~?」
「ひ、ひっ・・・火の玉っ!火の玉がそこに・・・っ」
「火の玉ぁ?そんなバカな」
「嘘じゃないって、今そこに赤い光がフワ~って・・・」
「はぁ?どこにもないじゃないか」
「ほんとだって!ありゃ、間違いなく火の玉だ!」
「酔っぱらってるのかーぁ?そんなわけないだろぉお」
「ほんとに火の玉が出たんだってぇ・・・信じてくれよぅ~。ほらぁあっ!いたぁああっ!また、あそこっ!」
「あー、はぃはい、気のせい、気のせい」
「こぇええええっ、はよぅ帰ろぅてぇ・・・」

ボクに付けられていた首輪のライトが、青とか緑とかだったら良かったのだろうけれど。
どうやらそのライトは「赤色」だったらしい。
(と言っても、ボクにはあまり色がわからないのだけど)

あるいは
ボクがお墓で遊んでいなかったら、このおっちゃんを驚かすことはなかったと思う。

おかーちゃんとばーちゃんは、笑うのを一生懸命にこらえていた。

きっとあの「おっちゃん」は、家に帰ってからも家族の人たちに「火の玉を見た!」って言ったんだろうな。
そして「どんだけ吞んできたの?!」って、
・・・やっぱりバカにされちゃったんだろうな。

かわいそうに。

ボクは、少しくらい寒いのはへっちゃらだったけれど
やがて外には雪が積もってしまい、冷たい雪の上ではさすがに歩けなってしまったので、
それまで毎晩続いたボクの夜のお散歩は、終わってしまった。

 時は流れ・・・

春になっても、ボクはもう「夜のお散歩」を忘れていた。

というか。
その頃、おかーちゃんのお仕事は夕方早く終わっていたので、夜のお散歩は、
おかーちゃんがお仕事から帰ってきてからお夕飯の時間になるまでの「夕方のお散歩」に変わっていた。

1年365日
1日24時間

それは今もあの頃も変わりがないはずなのに
おかーちゃんたちは時々、
「あの頃って、どうやってあんな生活してたんだろうね」
と言う。

今、ボクと夜のお散歩をしようとしても、きっともう、そんな時間は作れそうにないという。

不思議だ。

宇宙-sora-
宇宙-sora-

っていうかさ。
テレビ観なきゃ、いいんじゃね?

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